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森本美由紀展で涙ぐむ

 
Yayoi_museum
●ファッション・イラストレーター 森本美由紀展
 2015年07月03日〜09月27日 弥生美術館
 
 《an・an》や《non-no》のような老舗は別として、日本でファッション雑誌が相次いで創刊されたのはたぶん1980年代に入ってからだと思います。ピークは90年代前半かな、21世紀に入ると次第に翳りをみせ、有名どころが休刊になるニュースでさえも最近ではほとんど話題にのぼることがなくなりました。実感としては、80年代半ばからのだいたい10年間くらいが黄金時代って感じかなあ。ま、これはあくまでわたしの個人的な印象なんで、実際のところ(発行部数だとかそういうデータ)はまた違うんでしょうけど。
 
 森本美由紀さんはそんな<ファッション誌の黄金時代>を象徴するイラストレーターだった、と思っています。最初に見たのは80年代の《Olive》だったか《mc Sister》だったか。ポップな描線と色遣いがいかにもアメカジで、センスがいいなあと感心してました(初期の頃は上田三根子さんっぽい絵だなあとも思ってましたが)。次に印象に残ったのは90年代前半頃の雑誌《MINE》の表紙。こちらはペン画ではなく筆を使った大胆な描線で、とにかくカッコ良かった。デッサン上手いなあ、オシャレだなあとこちらも毎号感心して眺めてました。なにより、この表紙は店頭の雑誌売り場でよく目立っていたんですね。なのでついつい手に取っちゃう。
 2013年に亡くなられた頃にはわたしはもう雑誌をほとんど読まなくなっていたんですが、今回回顧展をゆっくり見て回っていくうちに、かつて雑誌を浴びるように眺めていたころのことが次々と思い出されて、気が付けばちょっと涙ぐんでました。や、そういう反応は自分でもちょっと意外だったんですけども。
 
 * * * 
 
 欧米でのファッション誌の<黄金時代>がいつになるのか。これも人によって見解が分かれるのかもしれませんが、こと「ファッション・イラストレーション」が全盛だったのはやはりカラー写真のグラビアが登場するまで、ということになるでしょう。1940年代から60年代にかけて活躍したルネ・グリュオー(画像検索)あたりは、森本さんもモロに影響を受けていそうです。
 森本さんの凄いところは、写真が当たり前となっている現代の日本で、そんな「かつての主流」だったイラストレーションを見事に甦らせたこと。先人たちの技術をきちんと受け継いで自分の技術としているところでしょう。

かつては日本のスタイル画の巨匠だったセツ先生でも、さすがに当時イラストレーターとしてはスタイル画の仕事をほとんどやっていなかった。セツ先生だけでなく当時誰もこの古臭いスタイル画というジャンルをイラストに取り入れてる人はいなかったんですね。でも学校では、セツ先生がいろいろおしゃべりしてる中に出てくるこのオシャレでモダンなスタイル画というイラスト世界に私は夢中になりました。
 当時は日本に誰一人としてめざす人もなかったけど、私が、そういう洒落た絵を描く人になりたいと思ったんです。

 上に引用したのは、2004年(森本さん44歳)のインタビュー。展覧会にあわせて出版された作品集《森本美由紀 女の子の憧れを描いたファッションイラストレーター》(内田静枝編/河出書房新社刊/2015年6月)136ページから抜き出しました。「セツ先生」とは日本のファッションイラストの先駆者である長沢節のことで、1979年にセツ・モードセミナーに入学した森本さんはそこで古いファッション・イラストレーションに目覚めたといいます。師匠である長沢節のドローイングも見事なものですが(画像検索)、森本さんはそれをさらにより現代的なものへと“リファイン”させました。
 卓越した技術をもとに過去の遺産をきちんと継承するという点で、森本美由紀というひとは実に腕のいい「職人」だった、と言えるでしょう。こういう人は年齢を重ねていくにつれ自分の世界をより深く、より大きく発展させられるんですよね。それだけに、享年54での死去が本当に惜しまれます。先のインタビューの最後に語られた言葉が胸に迫ります。
イラストレーターは一生できる仕事ですから、私は60歳すぎてもイラストレーターをやり続けようと思っています。お豆腐屋さんが毎日みんなにお豆腐を供給するように働きたいな、って。あっという間に時間がたっちゃうから、最近はドンドン働こう! と心を入れ替えました。(中略)まだまだ描いてみたいモノがたくさんあるのでどんどん絵を描きたいですね。時間が足りないです(笑)。(同上、p141)

 
 * * * 
 
Mm 会場で原画を見ていて気付いたことがいくつか。雑誌用の小さなカット用であっても、原画はけっこう大きなサイズで描かれてたりします。文庫本の表紙用のイラストでもそうだし、先に触れた《MINE》の表紙絵でも、実際に使用されたのは上半身ですが原画はほぼ全身が描かれていたりと、原画ならではの発見が随所にあって見応えがありました。
 森本さんは道具にはあまりこだわらない、というか、どこでも買えるような画材を使うことを重視していたそうで(どこでもすぐに仕事ができるから)、原画もイラストボードだけでなくスケッチブックに描かれたものが最終稿になっていたものもありました。そうか、弘法筆を選ばず、ってこういうことなのか。
 カラー作品も美しいんですが(特にマーカーを使った作品が好き)、筆を使って描かれたモノクロの絵は雑誌用のイラストレーションというよりそれ単体としてとても力強く、大判のポスターにしたらさぞかしかっこいいだろうなあと思うものばかり。ミュージアムショップではいくつかポストカードを売ってましたが、ハガキサイズじゃやっぱり物足りない。上の写真のポスターもけっして悪くはないんですが、白地にモノクロのイラストをあしらったシンプルなクリアファイルがわたしにはいちばんしっくり来たかな。書類ばさみとして使うのはもったいないので、額装してみました。うん、なかなかいい感じ。
 Mm_flame
 

2015 09 23 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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