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きものえまき

 
Isho_emaki
 
●日本衣装絵巻 —卑弥呼から篤姫の時代まで
 2015年10月17日〜2016年01月12日 神戸ファッション美術館
 
【展覧会図録】
 デザイン;山本麻樹(サンエムカラー)
 
 昨秋から開催していたこの展覧会、終了間際でしたがなんとか観に行くことができました。
 
 行く前は、サブタイトルから察するに古代からのキモノの歴史を概観する内容なんだろうかと思っていて、実際それは半分間違いではなかったものの、でも違うと言えばちょっと違った。
 どういうことかといいますと。
 

 
 本展の出品作はすべて、昭和初期に制作された<復元品>です。衣装だけでなく扇子や太鼓、長い長い煙管なんてものもいくつか展示されています。衣装だけでも100領を展示というからかなりのボリュームがあり、見応えがありました。
 で、いったいなんのための復元かというと、かつて京都で『染織祭』というイヴェントがあって、そのために用意されたものなんだそうです。
 『染織祭』は1931(昭和6)年から20年間行われていた祭り。京の三大祭りのひとつとされる「時代祭」には過去の装束を身に纏った行列がありますが、それと同じようなものと考えていいんでしょうかね。いわゆる「三大祭り」の中でも時代祭は明治時代に考案されたいちばん新しいお祭りですが、おそらくこの染織祭もそれに続く「第四の祭り」にしたかったんでしょう。けれども復元衣装による行列は1933(昭和8)年から1937(昭和12)年の5年間に行われただけ、染織祭じたいも1951(昭和26)年を最後に途絶えてしまいました。
 Wikipediaによれば、時代祭も1937(昭和12)年から1949(昭和24)年までは戦争のため中止していましたが、翌年再開したときにはじめて婦人列が追加されたとか。大きく言えば染織祭は時代祭に吸収合併された、と見ていいのでしょう。
 そういえば展覧会を観ているあいだずっと「女性の衣装ばかりで男性のものが全然ないなあ」と不思議に思っていたんですが、そもそもの「染織祭」が、当時男性の衣装ばかりだった時代祭に対抗していたから、だったんですね。なるほど。
 
 対抗意識はそれだけにとどまりません。時代祭が明治維新から遡って平安時代までを再現しているのに対し、染織祭は遠く古墳時代から江戸後期までの衣装を取り上げています。いずれも昭和初期当時の最高の技術で復元されたもので、解説によれば平成の現在ではすでに失われてしまった技術もあるのだとか。
 別の展覧会でたまに安土桃山時代の着物の展示を見ることがあって、残念ながら色あせたり糸がほつれていたりとかなり時代の風化ってのを感じさせるんですが、今回の展示品はつい昨日作られたばかりのように見えるほど、どの衣装も色鮮やかで綺麗です。とはいえよく考えたら制作されてからゆうに80年はたっているわけで、よほどいい状態で保存されてきたんだろうなあ。
 
 
 本展に登場する、つまりかつての「染織祭」行列のために衣装が復元された「時代」は次の通り。
 
・古墳時代(3世紀中頃〜7世紀頃)
・奈良時代(8世紀)
・平安時代(〜12世紀)
・鎌倉時代(〜14世紀初期)
・室町時代(〜16世紀後期)
・安土桃山時代(16世紀後半)
・江戸時代前期/後期(17世紀〜19世紀)
 
 ただし、いずれも各時代の一部のトピックだけを抽出しているため、たとえば「平安時代」と言われて真っ先にイメージする十二単なんかは出てきません。平安期は<年中行事絵巻の詞書にある、高尾寺の法華祭に催された「やすらいはな」を参考に復元>とあり、「やすらい花踊り」の衣装が再現されています(※ただし現在の研究では「やすらい花踊り」ではないとの注釈がついていて、ややこしいのですが)。「桃山時代」に至っては、豊臣秀吉が1598(慶長3)年3月に開催した《醍醐の花見》の衣装を当時の史料をもとに復元というピンポイントさ。
 なお、染織祭の詳細や展示品の画像などは、全ての衣装の所蔵元である公益社団法人 京都染織文化協会のサイトに詳しく掲載されています→こちら
 
 
 展覧会のサブタイトルから<卑弥呼がいた太古の時代からの日本の着物の歴史が一望できる>ような内容かなと勝手に想像していたんですが、行ってみたら<広く・浅く>網羅したものではなく、各時代のごく一部を取り出してピンポイントに掘り下げたものだった。冒頭に「違うと言えばちょっと違う」と書いたのはそういうワケなのでした。
 や、だから面白くなかった、というのではもちろんなくて、たとえば醍醐の花見というトピックで何種類ものデザインが並んでいるのはやはり圧巻だしたいへん面白かったんですけどね。
 
 マネキンに着付けているものと平面に広げているものと、展示の仕方は大きく2通り。それはいいんですが、いくつかのマネキンにイマ風の目鼻立ちの顔があるのは少々違和感ががが。顔があるとどうしてもそちらに目が行くので、この手の衣装展ならのっぺらぼうかいっそ首から上は無い方がすっきりするのになあ、などと思ってしまいます。
 
 
 いくつかに分かれていた会場の最後の部屋は常設コーナーで、ここだけ西洋の衣装がずらっと並んでいます。ベルサイユかどこかの宮殿のお姫様みたいな時代がかったドレスから、シャネルやカルダンのような現代のオートクチュールまで、ものすごい駆け足ですが欧米各国の衣装の歴史が紹介されています。《日本衣装絵巻》とはまったく無関係なオマケみたいなものではあるけれど、このコーナーがあるおかげで日本の衣服の特質が対比として鮮明に浮かび上がり、なかなか興味深いものでした。
 
 総じて日本の衣装展の方は昔の方が面白く、西洋の方は逆に昔よりも現代の方が面白かった。鎌倉〜室町あたりの幾何学柄のモダンさ、色合いの渋さはなんともすばらしい。逆に江戸時代になるとなんだかどんどん普通になっていく感じ。技術力をふくめ衣装としての完成度は高くなっているんでしょうけど、見た目の面白さとしては、わたしは近世以前の方が断然好みです。まあ、今回の展示品が実際に復元制作されたのは昭和初期なので、微妙な色合いなどにはそれなりに制作当時のセンスが反映されているんでしょうが、それを差し引いてもやっぱり室町期あたりのは素敵だなあと。
 
 日本の衣装は古くから<あわせ>、つまりレイヤードで、色や柄の組合せを複雑に楽しむものなのに対して、西洋の衣装として展示されていたものが単体のドレスが多めだったせいか、なんつーか、簡単に脱がせられそうだよね、などとも思ったのでした。胸もとか肩の辺りをちょっと下げたらモロ出しじゃん、みたいな。まあそれを言うなら日本の着物だって、時代劇のお代官さまの<帯をほどいてくるくるくる→「あ〜れ〜〜おたわむれを」→「ふふふ、良いではないか良いではないか」>みたいに簡単なものでしょ、となるんでしょうけど…って、なんで新年早々衣装展を観ながらエロ妄想をしてるんだ、自分。
 そういう意味では、着物は平面的なものだけれど洋装は立体的だよなあ。着物はほどくと一巻の反物に戻るので仕立て直しがやりやすいし、デザインもやりやすいんだろうなあと。日本=絵画的、西洋=彫刻的ってまで言い切ってしまえるかどうかはともかく、確かに洋の東西で違いはあるんだろうなと。
 
 再現された各衣装に使われた染織技術の解説などもしっかりとしていて、その方面でも勉強になるんでしょうけど、とりあえずただほや〜と眺めているだけでも充分楽しめた展覧会でした。
 わたし、別にファッショナブルなひとでもなんでもないんですが、やっぱキレイなモノは誰が観てもいいものだなと。色×色とか柄on柄とか、自分にはとうてい真似できそうにないコーディネートだとは思うんですけど、ま、運動音痴がサッカー観ても楽しめるでしょっていうかさ。
 

2016 01 10 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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