まんがし
●江戸からたどる大マンガ史展
2015年11月14日〜2016年02月07日 京都国際マンガミュージアム
今日的な意味での「漫画」のはじまりをいつ頃とするか。専門家の間ではいろいろな説があるんでしょうが、本展では出版文化が定着した江戸後期、18世紀後半からをひとつの目安にしています。肉筆作品ではもちろんもっと以前からいくらでもありますが、印刷物として広く一般に流通し、メディアとしての役割を果たすようになってから、というのは説得力があります。このくくりだと、ただ滑稽な面白さを目的としたものだけではなく、複雑な物事を絵とそれに添えられた言葉でわかりやすく図解する、いわゆるイラストレーションもこの範疇に入ることになるんでしょうが、まあ今でも「学習漫画」というジャンルだってありますしね。
見立て絵や判じ絵から、疫病や地震など災害へのおまじない用、もちろん時局を面白おかしく諷刺した戯画、別名「笑い絵」とも呼ばれた春画まで、コンパクトな展示ながらさまざまなジャンルの「マンガ」が紹介されています。このうち春画については1点のみ、未成年者も多く利用するミュージアムだからここだけちょっと特殊な展示のしかたになってましたが、それでもちゃんと紹介していたのはさすがです。
ボリュームとしては江戸期がだいたい三分の二、明治以後が残り三分の一、って感じだったかな。最後は手塚治虫『新寶島』で締めくくられていましたが、まあこの一冊は無理矢理持って来た感じで、実質は太平洋戦争の頃までです。個人的には大正〜昭和初期あたりの展示をいちばん熱心に観ていました。専用図録がなかったので、もっとちゃんとメモをとっとけばよかったなあ。
先日観に行った小川千甕の作品があるかどうかも少し気になっていたんですが、あっさり発見。1914(大正3)年の第二次『東京パック』誌の表紙のひとつに、千甕のサイン入りのがありました。竹久夢二ふうの洒脱な美人画で、千甕はこの前年にヨーロッパ旅行をしていますが展示作品からはあまりその影響を感じられません。
ただ、解説パネルには小川芋銭や下川凹天などの名前こそあるものの、千甕の名はどこにもなし。人気雑誌の表紙を描いていたくらいだから当時それなりに実力は認められていたはずですが、マンガ史的にはそこまでの重要性はなかったのかな。
まあ、わたしも千甕展を観るまで知らなかった名前ではあるんですけど、せっかく同時期にすぐ近所の京都文化博物館で回顧展をやっていたんだから、ここでひとことくらい触れていてもよかったのに、とは思いました。
個人的におやっと思ったのがもうひとつ。1931(昭和6)年に新聞(たしか讀賣だったかと)に載った、現代日本の風俗をいろいろ描いたスケッチのひとつに、西洋美術の新しいムーヴメントを紹介した一コマがありました。そこに描かれていたのはフォービズム、シュールリアリズム、メカニズムのみっつ。フォーヴ(野獣派)とシュルレアリスムはまあわかるとして、メカニズムってなんだろうと絵の方を観るとフリッツ・ラングの映画『メトロポリス』っぽい感じのロボットのイラストが。当時の「現代美術」が日本で受容されている一例として、なかなか興味深いイラストでした。
<大マンガ史展>というわりには展示スペースも少なく、ほとんど駆け足のような展示になっていたのはいささか残念ではありました。とくに大正から昭和初期あたりのは、そこだけに焦点を絞ったもっと本格的な展覧会が観たくなりました(同時代の欧米のマンガも並べて比較できたらより面白そう)。今後に期待したいです。
2016 01 17 [design conscious] | permalink
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