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KAZARI

 
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●かざり —信仰と祭りのエネルギー—
 2016年03月01日〜05月15日 MIHO MUSEUM
 
 日本美術史のなかで「かざり」というキーワードは、「奇想」と並んでMIHO MUSEUM館長の辻惟雄さんが提唱し、いちやく広まった概念です。初出は1988年に開かれた展覧会《日本の美—かざりの世界》で、この展覧会の様子は辻さんの自伝『奇想の発見 ある美術史家の回想』(新潮社/2014年)にも詳しく描かれています。ちなみにその時の図録に書かれた文章は、ちくま学芸文庫『奇想の図譜』(文庫化は2005年)で読むことができます。
 
 なのでこの展覧会タイトルをはじめて聞いた時、ははぁいかにも辻さんらしい企画だなと思っていたんですね。ところが会場に着いて入口のパネルを読んでびっくり。この三月で辻さんは館長職を退任されるらしい。MIHOのウェブサイトには何もインフォメーションがなかったので、不意を突かれた格好でした。であれば今回の展覧会は、十年以上も当館に関わってこられた辻美学の集大成という位置付けになるのか。思わず気合いを入れて中へ足を踏み入れます。
 
 そうか、今回プライス・コレクションから伊藤若冲の作品がいくつも提供されているのも「退任記念」だからだったのか…。と後になって思い至ったんですが、上の看板にも使用されているプライス本『鳥獣花木図屏風』は以前の若冲展で観たことがあったけれども今回はわたしが未見だった静岡県美の『樹花鳥獣図屏風』も同時に展示される(3月13日まで/プライス本は4月17日まで)というので、辻さん退任を知らなかったわたしはなによりもまずそれを楽しみにしていたんですね。
 会場中ほど、薄暗い部屋にふたつのモザイク画屏風が対峙しているのはやはりとんでもなく奇妙で面白い体験でした。実際、これがお目当ての人も多かったのでしょう、この部屋だけ常時賑わっていたけれども、そしてみな口々に感想を言っていたけれども、不思議に緊張感が漂う空間でもありました。両作が同時に観られるチャンスはもう当分ないだろうし、計四隻の屏風のあいだを幾度となく行ったり来たりして、たっぷり堪能しました。
 
 
 副題にもあるように、本展は主に「信仰と祭り」の世界を紹介しています。たとえば着飾った女性の装飾品なんかは出てきません。展示品は仏教美術関連が多くを占め、信仰の場でいかに豊かな装飾性が発揮されてきたかを物語る内容です。なので、若冲を除けば意外に静かな展覧会でもありました。構成は十章にわけられているんですが、各章の展示物がそれほど多くないっていうのも地味に感じた理由のひとつかもしれません。期間中何度か展示替えがあるので、トータルでいえばそこそこの出品数なんでしょうけど。
 
 涅槃図や曼荼羅図などもそれなりに興味深かったんですが、若冲を別にすれば華やかさでいちばん度肝を抜かれたのは泉屋博古館所蔵の『二条城行幸図屏風』(3月27日まで)でした。
 これは寛永三(1626)年、徳川家が天皇を二条城に招いたときの行列を描いた大きな屏風で、まわりの見物人まで含め登場人物はなんと3200名を優に超えるのだとか。上半分が公家、下半分が武家という大胆な構図のなか整然とすすむ行列と、彼らを眺める見物客が実に個性豊かに、しかも縁密に描き込まれていて、いつまで眺めていてもまったく飽きません。十七世紀前半に作られた作品のわりに保存状態がとびきりよく、鮮やかな色彩も見事なものでした。
 実は鹿ヶ谷の泉屋博古館には一度も行ったことがなかったんですが、これを観て俄然興味が出てきました。今度訪れてみようっと。
 
 もうひとつ面白かったのは最終章。MIHO MUSEUMのある滋賀県の「曳山祭」に使われる装飾品などが並んでいます。祭礼に使われる山車や装飾品といえばとなりの京都・祇園祭が国際的にも知名度が高いし、七月の祇園祭期間以外でもたとえば京都府立文化博物館の常設展示室などで展示される機会もあるので馴染みもあるんですが、滋賀の祭りとなるとなかなか知る機会は少ないものです。貴重な機会なのでここも時間をかけて眺めていました。
 
 * * *
 
 そういえばMIHO MUSEUMが地元・滋賀の紹介に積極的になりだしたのっていつ頃からだろ。1997年に開館(初代館長は梅原猛さん)してしばらくは、運営母体が新興宗教団体ということもあってか、どちらかというと特異な存在だった印象があるんですが、最近は徐々に地元とも馴染んできたような気がします。
 わたしがここに頻繁に来るようになったのは辻さんが館長に就任して以降のことで、このブログにも感想文を書いた2006年の《ニューヨーク・バーク・コレクション展》が最初だったと思います(記事は→こちら)。今から思えばあの展覧会も、おそらく辻さんが館長だったからこそMIHOに持って来ることができたんだろうな。
 
 
 「日本美術における『かざり』」と題する辻さんの講演会が、3月20日に行われます。これが事実上の退任記念講演になるのでしょう。辻ファンとしては一度くらいご本人のお話を直に聞きたかったけれども、残念ながらこの日は他に用事があって信楽まで行けないのがクヤシイ。ともあれ、辻さんがおられたここ10年ほどのMIHOは面白い企画展がいくつもあって、その都度楽しませてもらったものです。ただただ感謝。ありがとうございました。
 

2016 03 06 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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