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はるてん・2016

 
 今年(2016年)の春に出かけた展覧会の感想をいくつか。
 
Nakanishi_moji
●文字の博覧会—旅して集めた“みんぱく”中西コレクション—
 大阪展 2016年03月04日〜05月17日 LIXILギャラリー大阪
 東京展 2016年06月02日〜08月27日 LIXILギャラリー1(東京)
 
 京都の中西印刷株式会社の第6代社長だった、中西亮(1928〜1994)の世界的に著名な「世界の文字」コレクション。氏の没後、遺族から国立民族学博物館(みんぱく)に寄贈されている。
 中西コレクションについては長年気にはなっていたんだけれども、なかなかまとまった展覧会を開いてくれない(お披露目された機会がたしか1度あったはずだけど、残念ながら見逃している)。で、今回、LIXILギャラリーが取り上げてくれたおかげで、ようやくその一端にふれることができた。感謝感激雨あられであります。
 大阪会場は、けして広いスペースというわけではないんだけれども、そのぶんぎっしり詰め込んだ感がすごい。古今東西、遠い過去に使われていた幻の文字から近現代になって新たに考案された文字まで、コンパクトながらこれでもかというほど並べられていて、見ていてたいへん楽しい。
 なにしろ、展示されている文字の全てが、まったく読めないものばかりというのがいいんですね。異邦人どころかもしかすると異星に迷い込んだのではないかと思うほど、思わず笑っちゃうくらい、まるで見当のつかない文字がどんどん出てくるのだ。他文化圏の人間からすればこりゃどう見たって同じだろ、というのが違う文字だったりする。例えるなら、ひらがなの「ろ」と「る」とか、カタカナの「ソ」と「ン」、ひらがな/カタカナ混合だと「う」と「ラ」とか。このように、日本語だって知らない人が初めて見たらそりゃ混同するよね、という例もあるけれども、そんなのが可愛く思えてしまうくらい<みんな同じ文字にしか見えない>ものが、ここには山ほど展示されているのだ。いやあ、人間のパターン認識能力ってすごいんだなあ。
 上の写真は図録。LIXILブックレットシリーズの一冊なので街の本屋さんでも買えるのが嬉しい(LIXIL出版/2016年3月刊/ISBN978-4-86480-513-1/AD:祖父江慎/デザイン;鯉沼恵一)。展覧会の内容はほぼ網羅されているはずなので、一家に一冊、おすすめです。
 
 
Yasuda
●安田靫彦展
 2016年03月23日〜05月15日 東京国立近代美術館
 
 てっきり関西方面にも巡回してくれるものと思ってたら、どうも今回はMOMATのみの開催らしい。ありゃりゃ、ということで行ってきた。
 ごく若い頃の作品からすでに、きちっとした描線、端正なフォルム、そしてなんともいえない上品な色遣いが完成されていて、それが生涯を通して安定していたのにまず驚かされた。ブレのなさという点では唯一無二じゃあなかろうか、などと思ったほど。とにかく理知的な作風なのだ。
 あと、構図というか、余白の扱い方を計算しつくしているなあというのも感じた。人物画で、視線の先にすっと空間が開けていると、それだけで何らかのドラマが広がって余韻を残す。同一画面に複数人が描かれていてもそれぞれ目線が異なるように配置されていたりして、このあたりの工夫というのが興味深かった。おそらく完成作に至るまではものすごくたくさんの下絵を描いて、かなり綿密に準備していたんじゃないかと思うんだけど、実際のところはどうだったんだろう。せっかくだから、創作の舞台裏も少し覗いてみたかった気はする。
 晩年に近くなるとタッチが少し荒くなるんだけど、緊張感が和らいだおかげで自由度が増したとでも言えばいいのか、抑制の効いたラフさ加減が絶妙で、描線のひとつひとつを追ってまったく飽きさせない。
 この人の描くテーマの中では、卑弥呼とか額田王あたりといった古代ものがいちばん好き。本人もおそらくいちばん楽しんで描いていたんじゃないかと感じられる。
 近いうちに関西でもやってくれないかなあ。安田ゆかりの地のひとつでもある、奈良の街なかで観れば、また違った印象になるはず。
 
 
Caravaggio
●カラヴァッジョ展
 2016年03月01日〜06月12日 国立西洋美術館
 
 「日伊国交樹立150周年記念」ということらしいが、こりゃまたシブイところを持って来たもんだな、というのが第一印象だった。美術全集でなら見たことがあったけど、実物に対するのはもちろん生まれて初めてだ。
 光と闇の対比がすごく効果的で、まるで映画の一場面を観ているようだが、このドラマティックさはライティングだけでなく、ポーズや表情によるところも大きいのだろう。ある種のハッタリと言うか、観客に与える効果ができるだけ大きくなるように、という点を常に念頭に置きながら制作を進めていたんだろうなあと思う。
 カラヴァッジョその人の作品だけでは点数が足りなかったのか、本展には「カラヴァジェスキ」と呼ばれるフォロワーたちの作品も出品されているんだけど、カラヴァッジョ本人の生涯(それ自体もとてもドラマティックだったりする)とその作品/続いて後世の継承者たち、という具合に、明確に分けて展示した方がよかったのではないかな。両者が混在しているせいで、なんだか焦点がちょっとぼけていたような気がした。
 
 ついでながら、国立西洋美術館の特別展の展示室は、細かく登ったり降りたりを繰り返すので、実はちょっと苦手だったりする。同一レベル上で部屋が区切っているのなら全く気にならないんだけど、あいだに階段がはさまると、どうしてもその間で一旦気持ちがリセットされてしまうのだ。さっき観た作品がもう一度気になって、という場合だって気軽に戻りにくいし。階段室で気分が寸断されつつ作品を観ていくことになると、どうしても集中力が途切れがちになる。
 常設展示室の方はわりと広々として気持ちがいいんだけどなあ。
 今春行った時、この建物を世界文化遺産に登録させよう、という主旨ののぼりが立っていた(ル・コルビュジエ設計というのがその理由)。よく知らないけど、もし世界遺産に登録されちゃったら気軽に改装とかが出来なくなるんじゃないのかな。個人的には、そんなに使い勝手のいい建築物だとも思わないので、ガワだけ残して中はすっかり作りかえちゃえばいいのに、などと常々思ってるんですが。大コルビュジエ先生に対してなんて無礼な、と各方面から怒られそうだけど。
 
 
Zen
●禅 ——心をかたちに——
 京都展 2016年04月12日〜05月22日 京都国立博物館 平成知新館
 東京展 2016年10月18日〜11月27日 東京国立博物館 平成館
 
 上の看板の左端に見えるのは雪舟作の『慧可断臂図』(国宝/1496年)。わたしはただただこれを観たいがために会場に足を運んだ(展示は5月3日からの後期のみ)。けれども、もちろんながら他にもいろいろあって、なかなか密度の濃い内容ではあった。
 禅宗を主題にした展覧会ではあるけれど、タイトルの横に小さく「臨済禅師1150年、白隠禅師250年遠諱記念」と書かれている。つまりメインの展示物は臨済宗(+黄檗宗)関連なんですね。ということは、たとえば横浜の總持寺や福井の永平寺に代表される曹洞宗が出てこない。ルーツをたどればもとは同じ達磨さんなんだし、みんな仲良く展示ってわけにはいかなかったんだろうか。ほんと、宗派ってめんどくせえな。…とか思いつつ、曹洞宗の公式サイトを開いてみたら、こっちはこっちで『禅の心とかたち —總持寺の至宝』という展覧会をやってるのね(2016年04月23日〜05月29日/鎌倉国宝館、2016年10月15日〜11月27日/名古屋市博物館)。ともに2会場での開催、会期もほぼ重なってるということは、やっぱ正面切って対抗してるってことなんだろうなあ。
 本展には『The Art of ZEN  From Mind to Form』という英訳の副題もついており、日本に来た外国人観光客も取り込もうっていう意識が伺えるんだけど、「じゃあ臨済も曹洞もいっしょになってやりましょう」ってことには…うん、やっぱりならなかったんだろうな。互いに「別物なんだから一緒にすんな」とか思ってそうである。…ま、別にいいんだけどさ。
 
 臨済宗というとやはり、戦国時代の昔から時の権力と密接に結びついていたというイメージがある。だからこそ、京都と東京の「国立」博物館で大々的な展覧会ができるんだろうし。
 歴代の禅師の肖像画などがずらりと並んで見応えがある。どの像もかなりリアリティがあるというか、対象となる個人の個性をできるだけ描き写そうという、強力な意志が感じられるのがおもしろい。けして理想化された人物像ではないのだ。だから描かれたひとたちがどんなふうに自分の人生を歩んだのか、背後のドラマをいろいろと想像してみたくなる。個性的な造形という点では彫塑作品も同様で、日本のリアリズム彫刻の宝庫やん、とも思った。単独ではどこかで見たことがあるものが多いものの、こうやってまとめて見せられるとやはり面白さが倍増するなあ。
 
 いちばん観たかった『慧可断臂図』をじっくり堪能できて、それだけですっかり満足なんだけど、もうひとつ、白隠の禅画が思いのほか多く展示されていたのにも感激した(上の看板、いちばん右端もそのひとつ)。白隠だけのまとまった展覧会を、いつかどこかでやらないものか。今年250年忌というならいい機会ではあるんだけれども。
 白隠は自画像もすごく面白かったし「寿」という字をいろんな字体で書いた『百寿字』もとてもグラフィカルかつモダン。ほれぼれしながら見とれてました。ポストカードか、それこそ流行りのクリアファイルかなんかでグッズ化してくれてれば買ったんだけどな(慧可断臂のクリアファイルは買った。使いみちが全く思いつかないけど)。
 
 * * *
 
 以上、2016年の春先からゴールデンウィーク期間中にかけて観に行った、展覧会の感想でした。じつは予定していながらまだ観ていないものもあるんだけど、さて、いつ行けるかな。
 夏から秋以降の情報はまだほとんど知らないけど、なにかいい企画が控えてるんだろうか。楽しみにして待っております。
 

2016 05 08 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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