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よりぬきマチコさん

 
Sazaesan
●サザエさん生誕70年記念 よりぬき長谷川町子展
京都展 2016年04月28日〜05月22日 美術館「えき」KYOTO
広島展 2016年07月09日~08月21日 ひろしま美術館
東京展 2016年08月27日~10月10日 板橋区美術館
愛知展 2017年04月29日~05月24日 松坂屋美術館
 
※上の画像は京都会場の入口付近に立ててあった顔ハメ看板。
 
 
 
 『サザエさん』をメインに据えた展覧会は、これまで何度も開かれていたそうだけど、わたしは未見。だが作者である長谷川町子その人の、生涯と画業を振り返る大がかりな巡回展となると、今回が初となるらしい。本展に合わせたかたちで、小学館から『長谷川町子の漫畫大會 〜町子・戦中の仕事〜』(2016年04月初版/ISBN978-4-09-103778-7)という貴重な作品集も出版されていて、これまでほとんど知られていなかった作家の軌跡を辿ることができる。
 
 「よく言えば きがね性。 ありていに言えば 人みしり。」と自ら記しているように(『サザエさん うちあけ話』p.80/姉妹社(のち朝日新聞社から復刊)/1979年(元の連載は「朝日新聞」1978年))、同じ漫画家仲間はもとより他ジャンルの著名人たちとの交流も少ないひとだった。テレビなど他メディアへの露出もほぼ皆無だったのではないか(たとえば「徹子の部屋」に出演していてもおかしくないはずだが)。その徹底ぶりは、かつて顔の広さで知られていた冨田英三をして「交遊録を綴る資格がありません」と言わしめるほどだ(『別冊1億人の昭和史 昭和新聞漫画史』p.62/毎日新聞社/1981年)。ただ、同業者とのつきあいを避けていた理由としては、実妹の洋子氏によれば<「漫画集団」から、何度もお誘いを受けながら、入会しなかったのも、常に一番を目指していた町子には全員が競争相手、いわば対立集団として映っていたのだと思います。その意味で、心を許せるお友達は一人もなく、孤独な人に見えました>というのが興味深い(展覧会図録p.7)。
 何度も漫画家を廃業したがっていたことや、仕事のストレスから胃の摘出手術にまで至った話などは『うちあけ話』にも描かれているけれども、それもこれも、この強烈なライヴァル心があったからこそ、なんだろうか。加えて、会場にずらりと並んだ原画の修正作業の細やかさを見るに、よほどの完璧主義者だったんだろうとも思う。
 
 そう、戦前・戦中の貴重な作品がたくさん見られることもさりながら(なにしろ1934年、田河水泡に弟子入りする際に持参したというスケッチブックまで展示されている!)、この展覧会の最大の魅力は、なんといってもナマ原稿がたっぷり観察できることだろう。『サザエさん』だけでも100点、『いじわるばあさん』など他の作品も含めるとかなりのボリュームになる。作者としては、おそらくはこういう舞台裏を他人に見せるのは嫌がったはずだ。だから、これは没後でなければまず実現しなかった展覧会なのだ。
 基本的に4コマ漫画だから、作品としてもその一枚だけで完結している。なので展示品のひとつひとつを、飛ばすことなくじっくり「読んで」しまうのだ。さらに、さっきも書いたけれども修正や手直しの繊細な跡を追うのにも忙しい。何時間いてもまったく飽きない。会場は連休中ということもあってかなり賑わっていたけれども、みなさん滞在時間が長そうだった。
 そうそう、『うちあけ話』の原稿もあった。本を読んだ方ならご存じのように、あの作品は絵と文字を混ぜ合わせた独特の形式なんだけど、原稿はパーツごとに切り貼りして完成させているのだ。ページの隅々まで慎重に手を入れていたさまがありありとわかる。一気に流れるように描かれたんだろうなあと思わせる箇所がどこにもなく、正直、ここまで丁寧な仕事だったのかと度肝を抜かれた。
 他にも、新聞連載原稿と単行本化にあたって描き直された原稿を並べて、その違いを見せてみたり、アイデアスケッチと完成作を並べるなど、展示構成にもさまざまな工夫があって、見応えがあった。また、姉妹社版の単行本表紙絵に水彩や色鉛筆、マーカーなど、様々な画材を使っている様子もよくわかる。色遣いがオシャレなひとだなあとは昔から感じていたけれども、原画を見てその思いをさらに強くした。
 
 

 僕も単行本は全巻揃えているが、時折どの巻でも引っ張り出して読み返し、読み返すたびにケラケラと笑ってしまう。「サザエさん」の価値は無量と言わねばならない。(みなもと太郎『漫画の名セリフ おたのしみはこれもなのじゃ』p.142/立風書房(のち角川書店から復刊)/1991年初版(元の連載は「マンガ少年」朝日ソノラマ、1976〜79年)
  わたしが子供の頃にしょっちゅう読んでいた『サザエさん』単行本は、何度かの引っ越しの際に処分してしまったのか、今はもう手元にはない。朝日新聞社版の全集は買ってないので、漫画そのものを読み返すのはかなり久しぶりだった。そして、現在の眼で見ても笑える作品が多かったのには、改めて驚かされた。もう部屋に置くスペースは全くないので、この先単行本を買い集めることもないとは思うけれども(もし電子書籍版が出たらわからないが)、この図録を眺めているだけでもじゅうぶん楽しい。本展のカタログは、今後も折に触れて何度も読み返すことになるのはまず間違いないだろう。
Machikoten
 

2016 05 04 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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