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フジタ130
●生誕130年記念 藤田嗣治展 東と西を結ぶ絵画
愛知展 2016年04月29日〜07月03日 名古屋市美術館
兵庫展 2016年07月16日〜09月22日 兵庫県立美術館
東京展 2016年10月01日〜12月11日 府中市美術館
2006年に東京・京都・広島と巡回した生誕120年記念展以降、レオナール・フジタに関しては一気に露出が多くなったような気がする。それ以前では、わたしは生誕100年展(1986〜87年開催)を観ているけれども(関連記事は→こちら)、当時はまだまだ「海外では有名なのに日本では何故かあまり話題にされない」作家のひとり、という扱いだった気がする。10年前の展覧会(感想は→こちら)ですら、「長らく秘蔵されていた戦争画がようやく観られる」というのが話題の多くを占めていた。フジタの戦争画についてはのちに研究書が出版されたり、東京国立近代美術館で特集展示が企画されるなど、ずいぶんポピュラーなものになったと思う。彼を主役にした映画が作られた(『FOUJITA』小栗庸平監督/2015年、感想は→こちら)のも、その人気の高さにあやかっているのだろう。
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本展は記念回顧展ということもあり、ぜんたいの構成は120年展と大きく変わるところはない。出品目録を見るかぎりでは点数こそ今回の方が少し多いようだが、出品作はけっこう重複している。新鮮さという意味では、2013年に「渡仏100年記念」と銘打って開かれた『レオナール・フジタとパリ』展(感想は→こちら)の方に軍配があがるかもしれない。まあ、一時代を集中して特集するのと、生涯を通観するのとでは切り口がまったく違うので、そもそも優劣をつけるべきコトでもないんだけれど。
とはいえ、これまであまり観たことがなかった作品群もある。特に目を見張ったのは鉛筆のみ、あるいはその上から水彩絵の具で軽く着彩されたスケッチ類。これは見応えがあった。
もちろん大画面の油彩画でも、フジタの繊細な描線が見どころなんだけど、おそらくは非常に短時間で描かれたはずのこれらスケッチは、その線画の無駄のなさがあますところなく堪能できるのがいい。中でも1951年に集中して描かれた、ターバンを巻いた東洋風の少年・少女たちのスケッチの美しさときたら。なんならこのあたりのデッサンだけを集めた展覧会をやってくれたら、あたしゃ喜んで駆けつけるぞぉというくらい、もっと観てみたい! と思わせるものだった。
デッサンを見ていてあらためて、この画家は布地/テキスタイルへの関心が非常に高かったんだなあとも感じた。自身でも裁縫仕事など、細々と手を動かすのは好きだったようだけど、この人のシーツや衣服などの布地の描き方はかなりフェティッシュなそれで、主題となる人物よりむしろ服のシワこそが描きたかったんじゃないの、と思ってしまう作品すらある。上にあげたスケッチ群の多くもそうだし、他にも《エレーヌ・フランクの肖像(1924年)》や《坐る女(1929年)》、《マドレーヌ・ルクーの肖像(1933年)》などの肖像画は、どう見てもモデルより彼女たちが纏っているドレスの表現に重点が置かれている。
作品の多くは油彩画なのにそうとは思えないほど透明感のある色彩、極細の面相筆を使った繊細な描線など、フジタ絵画には日本画との親和性の高さを示す要素がたくさんあるけれども、モデルの衣装の驚異的な再現度と、それがもたらす華やかで装飾的な画面構成もまた、浮世絵をはじめ日本絵画の特長を見事に「フジタ化」した成果なんだろう。今回の副題「東と西を結ぶ絵画」の通り、この人の作品は西洋にあってはとても日本画的であり、日本滞在時代のそれはとても西洋画風だ。そのあたりの一筋縄ではいかなさというか、複雑さこそがフジタ作品に魅入ってしまう秘密なんだろうと思う。
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ごく初期の作品から太平洋戦争時代まで、フジタ作品は時代ごとに風貌を変えて飽きさせないしどの時代もすごく興味深いんだけど、個人的なことを言えば、最晩年のランス時代の作品群だけはいまだにちょっと苦手である。あきれるくらい綿密に描き込まれた描線のくどさもさりながら、人物の表情や仕草はすでにパターン化されており、あまり新鮮味を感じないのだ。ただ、生涯最後に取り組んだ大仕事、ランスのChapelle Foujitaだけは、叶うことならいつか訪れてみたいなあ。そういえば映画『FOUJITA』でも、エンドクレジットで映された教会の壁画やステンドグラスがひときわ印象に残った。
2016 07 24 [design conscious] | permalink Tweet
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