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[Exhibition] パロディ、二重の声

Parody_1970s

●パロディ、二重の声 日本の一九七〇年代前後左右
 2017年02月18日〜04月16日 東京ステーションギャラリー
 【写真上】
 展覧会図録/デザイン:𠮷田昌平(白い立体) 制作・発行:東京ステーションギャラリー
 【写真下】
 東京人 2017年3月号「特集 これはパロディではない アートとメディアと七〇年代カルチャー」 発行:都市出版

 
 うーん。こういう企画こそ全国巡回すればいいのになあ。東京だけの開催じゃもったいないぞ。会場内をぐるぐる2〜3周して、そう強く感じた展覧会でした。
 
 <シラケ>という言葉があたかも時代の象徴のように使われていた1970年代の日本。安保デモなどの、60年代までの直接的・熱狂的な大衆政治運動が急速に沈静化し、美術をはじめとする芸術活動もまた停滞期に入ったかのようにも見えた、そんな時代。
 

(…)万国博覧会の開催と七〇年安保の大山を超(原文ママ)えた国内は、一見して倦怠感に似た皮肉な距離のある空気に浸された。全共闘世代の読者に支えられた『朝日ジャーナル』が新左翼運動の引き潮とともに売上を激減させたことが如実に表すように、六〇年代の政治的熱狂はみるみる沈着へと転じていく。(図録p.12)

 そうした時期に、同時多発的にさまざまなジャンルで湧き起こったのが<パロディ>という手法(当時は音引き付きの「パロディー」表記の方が主流だったような)でした。
 
正面突破を図る闘争とは異なる、湾曲的に変質した抵抗の形でもあった。(同上)

 本展は、そうした70年代のカルチャー/サブカルチャー方面で多用された<パロディ>表現の数々を集め、検証していくというもの。単にポップで懐かしい「現代史の振り返り」だけに留まらず、21世紀のいまでもインターネット界隈を中心に問題となっている<引用と著作権>についても考えさせられる構成になっていたと感じました。
 上に掲げた写真、図録の下の月刊誌『東京人』は、本展に合わせた特集を組んでいますが、ただの展覧会紹介ではなく、独自の違う視点を取り入れているのでサブテキストとして一緒に読むとより理解が深まるように思います。
 
 展覧会は山縣旭(レオ・ヤマガタ)による特別出品『歴史上100人の巨匠が描くモナ・リザ』シリーズ(2006〜2016)でまず観客の度肝を抜いてから、1963年ハイブリッド・センターの『東京ミキサー計画』で始まります。展示品に赤瀬川原平作品が多いのは知名度の高さ故でもあるんでしょうが<時代を撃つ>表現のわかりやすさ、という点においてこの人の作品はやはり群を抜いていたのでしょうね。いつ見ても、そして何度観てもやっぱりこの頃の赤瀬川作品は面白い。
 続いて目立つのが長谷邦夫による一連のパロディ漫画。関連して赤塚不二夫の『マンガNo.1』や筒井康隆、山下洋輔ら多彩な面々が参加した『冷し中華祭り』がそれに続きます。山下エッセイの熱心なファンであったわたしは展示されてた単行本のいくつかは当時ほとんどリアルタイムで読んでましたが、そっかー、こーいうのももはやミュージアムで展示されるほどの「歴史資料」になったのねえ、としみじみ。
 続いて圧巻だったのが、雑誌『ビックリハウス』の表紙が創刊号からずらっと並んだコーナーでした。個人的には西武百貨店〜パルコ系文化にはついぞ馴染めなかったので、懐かしさとかはあまり感じなかったんですけど、やっぱこれは一時代を築いたんだよなあと再確認。東京といういち都市として、それまでの新宿から渋谷へと、カルチャームーブメントの中心が移動した記念すべき事件だったんだ、というのもよくわかりました。
 
 展覧会の最終章は世に名高い『マッド・アマノ裁判』をじっくり紹介しています。というか、むしろこのコーナーこそが本展の主眼ではないか、というくらいに実に丁寧な展示。なにせ図録には昭和47年の「東京地方裁判所判決」、昭和51年「第一次東京高等裁判所判決」、昭和55年「第一次最高裁判所判決」、同年「第二次東京高等裁判所判決(差戻審)」、昭和61年「第二次最高裁判所判決(第二次’上告審)」という歴代の判例集を全文掲載という、およそ<美術展の図録>とは思えない資料が掲載されているのですから(会場では一部抜粋と当時の新聞記事を交互に展示)。実はいずれの判例も裁判所のサイトから誰でも検索して閲覧できるそうなんですが、こうやってひとつにまとめて公刊されるのはほとんど史上初なんじゃないでしょうか。
 
 ともあれ、1970年代をリアルタイムで覚えているひとからまだ生まれる前だったひとまで、いろんな世代に必ずやどこかで響くはず。そんな風に感じられた展覧会でした。で、最初の感想に戻りますが、こういう企画は他の地方のミュージアムにも巡回してほしいよなあ。大阪あたりだとまた別の独自路線なんかもあった筈だし(例えばいしいひさいちを一躍メジャーにした「ぷがじゃ(プレイガイドジャーナル)」だとか)、そういう各地ローカルのトピックをそれぞれ加えた“アナザー・ヴァージョン”も観てみたいよなあ。そんな風にも思いました。
 
 * * *
 
 ついでながら。最近、和田誠の古典的名著『倫敦巴里』(話の特集/1977)が奇跡の増補復刻版となって甦ったんですが(『もう一度倫敦巴里』/ナナロク社/ISBN978-4-904292-71-6)、この展覧会にはまったく紹介されてなかったんですね(ミュージアムショップでは販売してましたが)。個人的には70年代パロディっつたらこの本だろ、と思ってたので展示で一切触れられなかったのがしごく残念だったんですが、図録によれば和田さんからは<今回の展覧会には参加見送りとの返事があった>とのこと。まあ確かに『倫敦巴里』あとがきには<本来は「パロディ」って本当に権威を引きずり下ろすくらいの力があるもの(…)俺のやってることなんか、やっぱり「モジリ」程度なんだよなあ>と書かれているので、堂々と「パロディ」を謳った展覧会タイトルに抵抗がおありだったのかなあと思うんですが、いち観客としては和田誠さんの直筆原稿はやっぱり観てみたかったなあ。もし次の機会があるならば、ぜひ!
 
 

2017 03 20 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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