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“テーマパーク”としての草間彌生展
●草間彌生 わが永遠の魂
2017年02月22日~05月22日 国立新美術館
国立系の美術館で開催される大規模な草間彌生展は、わたしは今回が3度目となります。
最初に観たのは、2004から05年にかけて東京国立近代美術館を皮切りに全国5会場で開かれた『永遠の現在』展(感想は→こちら、ただし広島会場以降は副題が変更)。次は2012年に国立国際美術館からスタートし、一年かけて全国4会場を巡回した『永遠の永遠の永遠』展(感想は→こちら)でした。今回の『わが永遠の魂』展は、残念ながら1会場、国立新美術館のみでの開催。なんだよー、全国巡回しないのかよー、とぶつくさ言いつつ足を運んだのです。
2004年展(実際に観たのは05年になってからの京都国立近代美術館展ですが)が生い立ちからはじまる回顧展、2012年展が新作メインの作品展だったのに対し、今回はその両方を一挙に見せるという大がかりなもの。個人的には昔の作品、なかでも渡米直後の1950年代末から60年代はじめ頃の静謐な作品群が好きなので、そのあたりが再見できたのが嬉しかった。
チケットを渡して小さな導入スペースを抜けると、いきなりの大広間(上写真)。ここでまず「うわー」と声が出ます。バスケのコートなら何面取れるんだぁ、という広い広いスペースの壁四方にみっちり並べられた近・新作群と、床に点在する立体作品群。この一室に限ってスマートフォンでの撮影OKということで、みなさん思い思いに自撮りしたりして楽しんでらっしゃる。
いくつかは前回展でも見たなあ、そういやあのときも衝撃的だったなあ、などという感慨にふける暇さえ与えないくらい、「怒濤の」とでも形容したくなるほどの圧倒的な物量戦。わたしは状況が理解できるまでしばらく入口付近でぽかんと立ちすくんでしまいました。
もちろんひとつひとつをじっくり堪能するのもいいですが、それよりもこの色彩の渦のようなお祭り広場に身を置いているという、その状況だけで十二分に楽しい。そうか、この空間は、つまりはアトラクションなんだな。
会場の全体的な構成としては、この大広間をぐるっと取り囲むようにして他の展示室があり、作家の生い立ちから最新作までを辿るものとなっています。第一室以外は撮影NGということもあってわりとよくある普通の「美術展」なんですが、途中にはアメリカ時代のハプニングの記録映像や、真っ暗な小屋に鏡と無数のLED照明で幻想的な空間を表出させた『生命の輝きに満ちて』、あるいは合わせ鏡の効果で無限に続くように見せた梯子のオブジェ『我ひとり逝く』など体験型の展示もあり、メリハリが効いていて飽きさせません。で、ぐるっと一回りしてまたもとの大広間に戻り、お祭り気分をもう一度というわけ。実に楽しい、上手い構成だなあ。
国立新美術館はなにしろ大きくて展示室も多いから、同時期に他の展覧会もやってるわけですが(わたしのようにミュシャ展とあわせて観た方も多かったはず)、草間彌生作品だけは敷地内のあちこちに侵食しているのがまた面白い。地下鉄「乃木坂」駅側、入場券売場横の野外展示場には巨大なオブジェ『南瓜』(これは会場内からでも眺められます)が。そして会場すぐ外の通路に設置された小部屋『オブリタレーションルーム』では水玉シールを貰った観客が好き勝手に貼りまくるパフォーマンス・アートが。さらに建物の外には、樹木をラッピングする『木に登った水玉』や大量のステンレス球を敷き詰めた『ナルシスの庭』などが。…書いてて今さらのように思い出した! そういや東側の正面口付近はちゃんと見てなかったけど、あっち方面にも何かあったのかな。
そうか、国立新美術館という建物全体が今は<草間彌生ランド>なんだ。この人はそもそもパフォーマーでもあったんだし、だからこそ展示方法としてこういう展開の仕方は、まったくもって正しいはず、なんだよな。
* * *
展覧会で撮影OKというのは、ツイッターをはじめとするSNS投稿による口コミ宣伝効果を狙ってのことでしょう。ミュシャ展の方でも1コーナー限定だけど撮影可となっていて、ちょっと驚きました。
「常設展以外に特別展でも撮影OK」というのは、ここ数年来のトレンドでもありますね。とはいえ、まだまだ「ごく一部」に限定されてはいるんですけど。ちなみに、スマフォ以外の普通のデジカメを持ち込んでいる人も何人か見かけましたが、わたしが滞在していた間に限って言えば、そのことを理由に係員から注意されていた人はいなかったような。
しかし、しかし。
実は、美術館全体の中でもっとも長蛇の列を作っていたのは、展示会場を出てからの物販コーナーでした。レジでの会計のためだけになんと4~50分待ち! という大行列ができていたのには思わず笑ってしまいました。展示室ですらかなり混雑していたとはいえ、なんの待ち時間もなく入れたというのに。
じっくり見たらつい欲しくなる記念グッズもたくさんあったと思います。わたしは早々にあきらめ、地下の売店で図録だけを買い求めてそそくさと脱出しましたが、実際はそういう<物販のための大行列体験>も含めてこその草間彌生展だったんだと思います。
物販の会計に長蛇の列、てのは「ミュシャ展」の方も同じで、肝心の絵を眺めているのと同じかあるいはそれ以上の時間を「買い物」の方に費やすってのは一体どうなのよ、などと思わぬでもないんですが…まあ「ひたすら並ぶ」ことすら、大型イベントならではの楽しみ方のひとつではあるんでしょう。
なんにせよ近年の<ビッグネームによる大規模美術展のテーマパーク化>問題は、これはこれで興味深い流行現象のひとつではありますねえ、良くも悪くも。
2017 04 02 [design conscious] | permalink
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