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『奇想』のベルギー展

Belgium●ベルギー奇想の系譜展
 栃木展 2017年03月19日〜05月07日 宇都宮美術館
 兵庫展 2017年05月20日〜07月09日 兵庫県立美術館
 東京展 2017年07月15日〜09月24日 Bunkamuraザ・ミュージアム
 
 副題に「ボスからマグリット、ヤン・ファーブル」までとあるように、15世紀末から現代に至るベルギー美術を<奇想>というキーワードで一挙に俯瞰する展覧会。ただしこの副題はウソとまでは言えないけど少しばかり誇張気味で、実は本展にはヒエロニムス・ボスの真筆そのものはない。科学的な年代測定からおそらくボスが存命中だったと推定される時代の「ボス工房」による作品が1点、同じく同時代の「ボス派(作者不詳)」の作品が1点と、没後しばらくたってからフォロワーたちによって描かれた「ボス風」の作品が数点。なので冒頭からちょっと肩すかしを食らった気分ではあったけれども、まあそれなりに興味深く鑑賞できた。
 副題に挙げられた以外の作家だと、ピーテル・ブリューゲル(父)、ペーテル・パウル・ルーベンス、フェルナン・クノップフ、ジェームズ・アンソール、ポール・デルヴォーあたりが有名どころかな。いずれも数点の展示なので、特定の作家をじっくりたっぷり観たい向きには少々フラストレーションが残るかもしれない。
 
 第1章が<15世紀〜17世紀のフランドル美術>、なぜか18世紀は飛ばして第2章が<19世紀末から20世紀初頭のベルギー象徴派・表現主義>、そして第3章<20世紀のシュルレアリスムから現代まで>と続く3部構成。個人的には第1章がいちばん面白かった。
 いや実際、第1章がいちばん時間がかかるんですよ。ボスとその模倣者による作品群もそうだけど、展示数的にもっともボリュームがあったピーテル・ブリューゲル原画による版画作品は、どれも細かな描写でひとつひとつを丹念に観ていくとなると相当集中力がいる。会場にはそれなりに人も多かったし、ひとつところにずっと立ち止まり続けるのはマナー上あまりよくない。なので、時間を置いて何度か行ったり来たりしてました。あとで図録をじっくり眺めようと思った作品も数知れず。
 「細かな描写」と上に書いたけど、要するに画面に対する情報量が、他の章と比べて段違いに多いんですよね。さほど大きくもない画面に、数え切れないほどの登場人物(人物よりも物ノ怪のたぐいの方が多いけど)で、そのひとつひとつがどれも個性豊かなのでいつまででも眺めていられてけして飽きることがない。展覧会の主題たる「奇想」が、ここではまさに縦横無尽に暴れまくっているのが実に楽しい。
 日本の中世絵画、たとえば『飢餓草紙』や『地獄絵』などの絵巻物や屏風絵なんかが仏教の教えを広く民衆に伝えるために描かれたのと同じように、ヒエロニムス・ボスが描きその後数多のフォロワーを生み出した「怪物たち」もまた、キリスト教の敬虔な信仰のもとに創り出された絵画作品のはず。人間の想像力というのは洋の東西を問わず、ひたすら清浄な極楽浄土よりも醜さや奇妙さをこれでもかと描写する泥臭い地獄の表現の方が向いているのかもしれない。そんなことを思いつつ会場を歩いていた。
 もうひとつ。この時代の作品にみられる描写の細かさは、おそらくは作者が「世界をまるごと描いてやろう」という確固たる信念があってこそなのかも、とも思った。絵の主題が聖人にまつわるエピソードであれ、あるいは<七つの大罪>のような抽象的な道徳概念であれ、その世界観をこと細かに説明しつくしてやろうという気概。こういう至れり尽くせりのサーヴィス精神は、第2章以降の、主題だけを中心に描いて背景は単に背景として処理されているものとはまるで違う性格のものだ。<登場人物を大勢描いて、これでもかとまるごと世界観を提示する>という意味では、かろうじて19世紀末〜20世紀初頭の画家、ジェームズ・アンソールくらいが該当したくらいかな(しかしアンソールは、当初は画壇からはまるで評価されなかったという)。
 
 * * *
 
 本展に選ばれた作家/作品のうち近年まとめて観られたのはルネ・マグリット(感想は→こちら)くらいで、他はすごく久しぶり(アンソールなんかはたぶん20数年ぶりだ)とか、あるいは画集では見たことあるけど実物はほぼ初めてばかりなのが実に楽しかった。初めて出会った作家だと、たった1点のみだったけどヴァレリウス・ド・サードレールがたいへん印象に残った(『フランドルの雪』1928年)。この作品は静謐ななかにも何か燃えたぎるものを感じさせて、できることなら1時間でも2時間でもずっと絵の前に立っていたいと思わせるものだった。
 
 あと、ポール・デルヴォーがいくつか観られたのも嬉しかった。欲を言えば、デルヴォー作品をモチーフにしたラウル・セルヴェの短編アニメーション『夜の蝶』(1998年)も一緒に紹介してくれればなあとは思ったけど。というのも個人的に、デルヴォーを知るきっかけになったのがセルヴェだったという思い出があるので…。
 ともあれ、ベルギー美術界の入門編として実にそつのない、良い展覧会だったと思う。<奇想の系譜>という、1970年に出版された辻惟雄さんのあの歴史的な名著をそのままタイトルとして堂々と借用していたのにはちょっとびっくりしたけれども、まあ、それだけ使い勝手の良い普遍的なコンセプトだったんだろうなあ。
 

2017 05 28 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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