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大塚国際美術館へ
徳島県鳴門市にある大塚国際美術館に行ってきました。
有名どころなのでご存じの方も多いと思いますが、ここは1998年に開館、広大な敷地に陶板による西洋絵画の原寸大複製が1,000点余りも並ぶ、たいへんユニークな施設です。
最初の写真は正面玄関で、こちらはその真裏を上から眺めたところ。山をひとつ削って作られたので、玄関ホールから長いエスカレーターを登った最初のフロアがB3、上の写真手前側の円形の庭(モネの「大睡蓮」の庭)があるところがB2で、山上に見える建物が1F/2Fとなる構造(向かって右が本館、直角で交わる左側が別館)。とにかく広いのと内部が細かく仕切られているので、自分がいまどこにいるのかさっぱりわかりません。いちおう床にガイドの矢印はあるし、フロアマップに従って歩けば迷子にはならないはずなんですが。
京都から高速バスに乗り込み、わたしが現地に着いたのはお昼少し前。先に腹ごしらえをしておこうと、展示を観る前にまず1F別館のレストランに直行して食事を済ませました。で、そのまま本館1Fの展示から見始めることに。本来ならばB3フロアに入ってすぐのシスティーナ・ホールで度肝を抜かれてから古代/中世/ルネサンス/バロック/ロココ…と順を追って階上へと巡るのが「正しい」ルートなんでしょうけど、わたしはいきなりゴール付近から逆行するかたちで見始めたというわけです。
まあ、西洋美術史を全部観てまわることになるので、どのみちどこかで息が切れます。小さい子どもを連れた家族連れなんかだと最上階に上がるまでに子どもが飽きちゃってもういいや、なんてこともあるかもだし、大人でもひとつひとつを丹念に観ていたら脚と頭がへとへとになって最後の方は疲労困憊なんてことにもなりかねないので、こういうのはまず興味のあるところから先に観ておくのがいいのかもしれません。
わたしは1F/2Fの現代/テーマ別展示を鑑賞したあと、B3に戻って古代/中世へと辿りましたが、じっさい一番印象に残っているのはここらあたりでした。B2とB1、とくに近代の印象派あたりになるとけっこう足早だったかも。
一度でも現物を観たことがある作品については、やはり「本物」を観たときの記憶やら感情が甦って、どうしたって目の前の複製品と比べてしまうことになるんですね。あるいは、観たことのない作品でも陶板をよくよくアップで観てみると、印刷で使うCMYKの網点がくっきり見えてしまう(たとえばレオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐/修復前バージョン」あたりが顕著だった)。一枚の大きさに制約がある陶板だから実物にはあるはずのないところで継ぎ目がくっきり入っているし、「まあこういうものだろうなあ」とけっこう冷静な目で見ておりました。
それでもこれはさすがだなあ、と感じ入ったのはいくつもあって、そのひとつが「環境展示」と名付けられた展示の数々。
サイトのトップページやポスターなんかにも使われているシスティーナ礼拝堂壁画も「環境展示」のひとつで、たしかに息を呑むど迫力で圧倒されましたが、個人的な好みでいえば上の「スクロヴェー二礼拝堂壁画」がいちばんでした。たぶん、これは実物より色鮮やかなはずですが、気品のあるブルーがたいへん美しい。ここに座ってしばらくぼーっとしていたら、やがて見学ツアーの団体さんがどやどやと来たので慌てて去りましたが。
こちらはカッパドキアの「聖テオドール聖堂壁画」。色あせて剥げかけた壁画をそのまま再現しているのと、キャンバス画ではなく壁画の複製ということで陶板との相性もいいのでしょう、中に入った途端に別世界に来たようでした。もっとも、実物を知ってる人がみたら「やっぱり複製だね」ってことになるのかもしれませんが。
陶製品の複製ということではオリジナル以上に興味深い見せ方をしていたのが古代ギリシャの壷の数々。円筒形の立体物を平面に展開した上で、陶板で再現しています。質感はリアルに似ているのに形状は見たことのないかたち、というのがたいへん面白かった。
古代〜中世の展示品は、そもそもが日本であまり見る機会が少ないものばかりということもあり、また上にも触れたように「陶板」という素材と親和性が高いこともあって、隅々まで楽しめました。中世初期あたりの古い宗教壁画壁画までが、個人的には全館のハイライトかな。
とはいえ陶板画との相性の良さという点では、意外にも現代美術のいくつかもぴったりでした。
たとえばこれはモンドリアンの「赤、黄、青のコンポジション」。この写真ではわかりにくいんだけど、ツヤのある色彩面と、マットに処理された黒のラインの対比がなんとも素敵で、こういう素材感の出し方はむしろオリジナルの油彩画よりも陶板ならではの表現なんじゃないかな。うちのお風呂場の壁面タイルもこんな感じにしたい…。
こちらはジャクソン・ポロック「秋のリズム:No.30」より。絵の具の盛り上がりをがんばって再現しているのがよくわかります。
上の写真なんかがそうですが、ディテールを確認したかったのでかなり近くからカメラを構えてましたが、舐めるくらいに顔を近づけても怒られないし、なんなら実際に触ってみてください、と係員さんがツアー客に言ってたので、そういう楽しみ方ができるのも「陶板複製画」ならではなのでしょう。複製複製とさっきからまるでさも二流品かのような言い方ですが、決してそういうんではなく、「西洋美術のテーマパーク」と考えればがぜん面白くなってきます。
敷地がとにかく広く、また展示品も所狭しと並べてあるので、頭と体の疲れはともかくとして途中で飽きることはまったくありませんでした。原寸大で1,000点以上という物量にも否応なく圧倒させられるし、日本にいてはまず見る機会のない貴重な作品もたくさん知ることができるしで、かなり愉快な体験なのでした。
欲を言えば「西洋美術史」の観点からいっても、日本人画家、具体的にはフジタあたりがひとつくらいあってもいいのになあとは思いましたが(あの乳白色の冷ややかなサーフェスはいかにも陶板に似合いそう)、まあ絵画を複製するにも権利関係とかいろいろ難しいところもあるんでしょう。
ともあれ、しょっちゅう通うところではないかもしれませんが、ちょっと時間をおいて再訪したい、そう思った美術館でした。次に行くときは渦潮の見頃の季節にしようかなあ…。
※写真は翌日訪れた渦潮見学施設「渦の道」で撮ったもの。基本的に高所恐怖症のわたしにとってなかなかにスリリングなところでした。楽しかったけど。
2017 07 17 [design consciouswayfaring stranger] | permalink Tweet
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