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The TOWER of BABEL
●ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展
東京展 2017年04月18日〜07月02日 東京都美術館
大阪展 2017年07月18日〜10月15日 国立国際美術館
オランダ・ボイマンス美術館が所蔵するブリューゲル(父)の『バベルの塔』は、1993年にセゾン美術館で開かれた〈ボイマンス美術館展:バベルの塔をめぐって〉以来、約四半世紀ぶりの来日となるそうだ。もっとも、前回展に行った記憶はまるでないから、このときは関西には巡って来なかったのかな。
なにやら主催者がわの気合いの入れ方も妙に熱気を帯びていて、上の立体模型は大阪会場のほど近くに位置するフェスティバルホール1Fロビーに飾られていたもの。他にも面積比にして実物の3倍とかいう高精細複製を東京藝大が制作したり、漫画家の大友克洋さんの描いた線画を合成して塔の内部を描いてみたりと、なんだかえらくはしゃいでねーか? と突っ込みたくなるほどの入れ込みようである。
“ご本尊”である「バベルの塔」は大トリに控えるとして、そこに至るまでの展示品が、しかしどれも見応えがあった。つい先日兵庫県立美術館で『ベルギー奇想の系譜展』(感想は→こちら)を観たばかりということもあって(ブリューゲルの版画の一部が重複していた)、より一層興味深く観ることができた気がする。
なにしろ先の『奇想』展ではかなわなかった、ヒエロニムス・ボスの真筆が2点も展示されているのだ。今回の目玉は表向きにはブリューゲルなんだろうけど、個人的にはこちらの方に興奮しました。パネルのみだけど「快楽の園」の解説があったのもポイント高いし(こちらも、ついこの前大塚国際美術館でじっくり観たばかり—複製陶版画とはいえ—なので感慨もひとしお)、会場外の特設ショップでは2016年にプラド美術館で開かれていた、ボスの500年記念展の図録が販売されていたのもさすが(高かったけど)(もちろん買ったけど!)(想定外の出費&重い荷物になって帰りに苦労したけど!!!)…ということで、本展はヒエロニムス・ボスの展覧会として観ても満足度は高いと思う。
で、「バベルの塔」だ。上の写真のような立体模型が作られることでもわかるとおり、あくまで空想上の建造物でありながらとてもリアルな描写なのが、この作品に人気がある理由だと思う。いわば最新VFX技術を駆使して作られたハリウッド映画の超大作、みたいなものではなかろうか。この絵が描かれたのは1568年頃というから日本では室町時代。織田信長がいよいよ大躍進するぜ、って気炎を上げているあたりだ。信長がこの絵を見たらさぞ気に入っただろうなあ、などと妄想もはかどる。
* * *
作品のすぐ近くでご覧になりたい方はこちらにお並びくださ〜い、という場内係員のアナウンスに導かれて行列に並ぶ。待つこと15分か20分くらいかな、すぐ間近で観た本作は、なんだかとても神々しく輝いて見えた。ポスターなどで同じビジュアルは既に何度も目にしているし、少しだけ離れた位置でよければ行列に並ばなくても同じものを好きなだけ眺めていられるんだけど、至近距離で観たときだけは、なんだか全然違うものに立ちあっているかのような気分になった。これはいったいなんなんだろう?
ひとつ思い当たったのは、会場の照明による演出ではなかろうか、ということ。全体にほの暗い展覧会場で、この作品を間近で観た時にだけ少し強めのライティングをしているんじゃないか。正確なところは会場構成スタッフにでも取材しないとわからないが、本展の最大のハイライトである本作品に、フィナーレを飾るにふさわしい演出を施そうとするのは意図としてごくまっとうでもあるだろう。
絵画それ自体は描かれた当初からほとんど変わらないにしても、観る環境が異なるとまったく違う印象を受ける、というのはこれまで何度か経験してきたし、展覧会側の演出としてわざとそういうシチュエーションを作りだす例もあった(たとえば、2006年から07年にかけて国内4会場を巡回したプライス・コレクション展では、照明をゆっくり変えて江戸期の日本家屋内で作品がどういう風に見えていたのかをシミュレーションするコーナーがあった)。モノは同じでも、見る側のその日の体調や気分によってさえも、受けとる印象はずいぶん違うもの。展覧会場の構成を担当したプランナーは、もちろんそういったこともよくわかっていることだろう。「直近で眺めたときだけことさら強い印象を与える」ことを演出として意図していたとしたら、わたしはそれにまんまと乗せられた、といえる。
上でわたしは例え話として「まるでハリウッド映画みたいな」と書いた。そういえば近年「爆音上映」と称して、音響再生にとことんこだわった上映会がコアな映画ファンを中心に人気を博している。オリジナルの作品は同一でもそれをどうやって観客に提示するのかという、演出面に注力する考え方は、最近のコンテンツ供給界隈の流行でもあるのだろう。本展もまた、そういった流れの中に位置する展覧会だと言っていいのかもしれない。
スペクタクルを、きちんとスペクタクルとして演出するのがいまどきの美術展なのだ。時として過剰なほどに…。ミュシャや草間彌生など、今年観た大規模展覧会のいくつかを思い浮かべながら、わたしは会場をあとにした。
2017 08 06 [design conscious] | permalink Tweet
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