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ブルガリアン・ヴォイスにくらくら
●ブルガリアン・ヴォイス アンジェリーテ
東京公演 2018年01月26日 武蔵野市民文化会館 大ホール
兵庫公演 2018年01月27日 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
広島公演 2018年01月28日 東広島芸術文化ホール 大ホール
1995年の阪神・淡路大震災復興イベントへの参加以来、実に23年ぶりとなる再来日公演は、グループ結成30周年記念の世界ツアーの一環としてのもの。昔からのブルガリアン・ヴォイス好きとして、このコンサートはどうしても聴きたいもののひとつでした。
長年のファンとかいいつつも、いま自宅のラックを探してみたらブルガリアン・ヴォイス関係は5〜6枚程度しかなく、アンジェリーテの録音はそのうち1枚だけでした(→感想はこちら)。他はフィリップ・クーテフ時代の<元祖>盤やさらにそれ以前の歴史的録音ものなど。あれれ、わたし意外に持ってなかったな…。
「ブルガリアン・ヴォイスの神秘 Le Mystère des voix Bulgares」というワードは、一番最初にこの合唱団を世界に売り出した音楽学者/レコード・プロデューサーのマルセル・セリエが商標登録をしていたため、ブルガリア国立放送合唱団という同じ母体から派生した<アンジェリーテ>が「ブルガリアン・ヴォイス」を名乗った際には裁判沙汰にまでなったそう。いまはもう堂々と名乗ってよくなったのかな。というかこのグループこそをブルガリアン・ヴォイスと呼ばずしてなんと呼ぶか、って感じではありますけど。手持ちのCDに付いている解説書の記述を信用する限り「アンジェリーテ」は同合唱団のいわば対外的な名称であり、メンバーも大半が重複しているそうで、少なくとも<本家の人気にあやかってにわかに出てきた二番煎じ>とかの類いではないことだけは、まず間違いないでしょう。
ちなみに、上の写真は左が今回の公演チラシ。真ん中は2013年、スタジオ録音盤としては10年ぶりに発表された最新アルバム《Angelina》(ドイツJARO 4310-2/日本からはライス・レコードが発売(RICE JAR-643))。右はこれまでの軌跡を辿った2枚組ベスト・アルバム《THE BULGARIAN VOICES ANGELITE・PASSION, MYSTICISM & DELIGHT》(JARO 4341-2, 2017年/日本からはライス・レコードが発売(RICE JAR-54003))です。
<結成30周年>とはいうものの、母団体であるブルガリア国立アンサンブルがクーテフのもと結成されたのは1950年代と古く(セリエによって世界的に知られるようになったのは70年代後半)、当時の録音を聴くといかにも民族音楽的でワイルドですが、あの独特のコーラスの響きは今聴いてもじゅうぶん衝撃的で面白いものです。在籍メンバーじたいはその時々で交代していったはずですが、総体としての<ブルガリアン・ヴォイス>はこの半世紀以上もの長い間、その神秘的ハーモニーをずっと失うことなく受け継いできたわけですね(なので、たとえ50年代の録音でも古さなど全く感じさせません)。
* * *
コンサートは、総勢20名のコーラス隊と指揮者(ゲオルギ・ペトコフ)だけによる、いたってシンプルかつストイックなものでした。途中のMCは一切なし。当然、よくありがちな「ミナサ〜ン、コニチワ〜」みたいな挨拶も一切なし。第一部のラストの「赤とんぼ」、アンコールでの「ふるさと」の2曲だけは日本向けのサーヴィスでしょうが、楽器伴奏すらない、まったくのアカペラだけで2時間近く(途中休憩含む)を通すというのは、正直予想外でした。
曲によっては、かけあいでコミカルな様が演じられているとおぼしきものもあるので、対訳字幕を舞台上に流すか、せめてプログラムに抄訳でもいから載せてほしかったところではあります。あと、ステージ最後部にはモニタースピーカーが数台並んでいたものの、おそらくマイクは使わずナマ音だけで演っていたような気がしたけど、どうだったのかな。
アンジェリーテのライブ映像をYouTubeから引用しておきます。ビデオはアメリカのボビー・マクファーリンとの共演(2002年、上記ベスト盤CDにも収録)ですが、彼を除けば今回のコンサートの雰囲気にわりと近いかも。曲は代表曲のひとつで、今回も第二部で歌った『Tapan Bie(太鼓を叩く)』。
上のような、CDで聞き覚えていたナンバーは第二部の方に多く、第一部は「美しいハーモニーだけどちょっとおとなしめかなあ」などと思っていました。目をつぶって聴いているとあまりの心地よさについうとうとと眠りに誘われそうなことも。まあそれはそれで贅沢な時間なんではありますが。
しかし、第二部ラストの大作『Mechmetio メフメティオ』にはそんなうとうと気分を吹き飛ばすようなインパクトがありました。
グラミー賞にもノミネートされた1993年発表の3rdアルバム『Melody, Rhythm & Harmony』からの一曲で、ベスト盤にももちろん収録されていますし、YouTubeでもJARO公式チャンネルで公開してますが、このナンバーはナマで見聞きしなければその衝撃はうまく伝わらないでしょう。ひそやかに口ずさむ短いフレーズが幾重にも重なって産み出される響きは、ときにオーケストラの弦楽器のような音色だったり、ときに森の木々が風にのって葉を揺らすようでもあったり。いろんな視覚的イメージが次々と現れては消えてゆく、まことに摩訶不思議な「体験」をしたひとときでもありました。なにより、人間の声ってこんな不思議な「音」が出せるんだという驚き。わずか20人のコーラス隊がもっと大人数にも思える音響の豊かさと、逆にもっと少ないアンサンブルのような錯覚をするほどのぴったりとした調和ぐあい。演目が終わって、長い拍手のあいだ中ずっと、わたくし「やばい」「すごい」などと極めて語彙力の低い感想を呟いておりました。
ブルガリアン・ヴォイスをナマで聴くのは長年の夢だったので、それがようやく果たせたのがなにより嬉しい。また近いうちに来ないかなあ。
2018 01 28 [face the music] | permalink
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