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【Ballet】眠れる森の美女
●英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団 2018 JAPAN TOUR
『眠れる森の美女』
兵庫公演 2018年05月11日 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
滋賀公演 2018年05月13日 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
愛知公演 2018年05月15日 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
東京公演 2018年05月18日〜20日 東京文化会館
『リーズの結婚』
東京公演 2018年05月25日〜27日 東京文化会館
『白鳥の湖』『くるみ割人形』と並んで、チャイコフスキーの三大バレエのひとつとされる『眠れる森の美女』。わたしは土砂降りの中のびわ湖ホール公演に足を運びました。
この公演は、プリンシパルの怪我のために急遽メインキャストが変更になるというアクシデントがありましたが、オーロラ姫/王子ともに日本人キャストという、これはこれで滅多に見られない配役ということもあって、会場はたいへん盛り上がりました。
感想を一言でまとめると「おだやかで上品」。絢爛な衣装や舞台装置とも相性がよく、また女性指揮者ニコレット・フレイヨン(かっこよかった!)によるセントラル愛知交響楽団の演奏もダンスとぴったり寄り添っていて、とても贅沢な3時間を過ごすことができました。
公演プログラムの解説によれば、『眠り〜』をはじめて英国でフル上演したのは1921年、ディアギレフ率いるバレエ・リュスとのこと。へええ、と思って帰宅してから芳賀直子さんの『バレエ・リュス その魅力のすべて』(国書刊行会/2009年9月初版)を開いたら、<この作品上演が遠因となって英国に後の英国ロイヤル・バレエ団が結成されるということは忘れてはならない>という記述が(p.156)。バレエ・リュスが現代バレエ・シーンに多大な遺産を遺したことは、知識としては知っていたつもりだったんですが、そっか、英国ロイヤル・バレエ団もそのひとつだったんですねえ。
ディアギレフ版の『眠り〜』は衣装などにお金をかけすぎで、また上演時間も休憩含め4時間に近い超大作ということもあって結果的に大幅な赤字を生み、その後のバレエ・リュスを経済的に苦しめる一因ともなったそうです。
今回上演されたピーター・ライト演出版でも上の写真のように約3時間と、たっぷりと見せます。見ている側としては名場面の連続なんで全く飽きませんが、演じる方としてはかなり気力と体力を使う演目なわけですね。ともあれ、デリア・マシューズの怪我が軽度で済んでますように。
物語の原作はシャルル・ペロー。「赤ずきんちゃん」や「長靴を履いた猫」などペロー童話の有名キャラまでカメオ出演するという<オールスター映画>みたいな本作ですが、<呪いによってヒロインが100年の眠りについてしまう>というのはさすがに発表当時でもかなりトンデモ設定じゃなかったのかな。なにせお姫様にしてみれば、100年後の未来人のキスによって強制的にスリープ状態から覚め、その未来人と結婚してしまうわけで。
マリウス・プティパの台本/振付による初演は1890年、帝室マリインスキー劇場。わたしはペローの原作をちゃんと読んだことはないんですが、17世紀〜18世紀くらいの<ヨーロッパのどこかの小さな王国>を舞台にしているんでしょうか。今回のステージでも、導入部の登場人物たちは中世風の衣装やかつら(大バッハの肖像画なんかでおなじみのアレ)を身につけてますが、悪役として登場するカラボスとその手下たちの衣装や動き方なんかは、むしろモダン〜コンテンポラリー・ダンス寄りのセンスがそこかしこに感じられて面白かった。カラボス一味だけでなく、(明らかにプティパ直系のはずの)かの有名な第三幕の姫/王子によるグラン・パ・ド・ドゥなどを除いて、多くのソロ・シークエンスに現代的な味付けが施されていると感じました。温故知新と言いますか、「21世紀のいま、古典を演じることの意義」ってのは、つまりはこーゆーことなんだぜ、って主張しているようでもあり。
いや、プティパ振付といったって実際に演じているのはみんな現代人なんですし。学術的な意味を持つ復元公演でもないかぎり、商業公演の演出手法として非常にまっとうである、というだけの話なんですけどね。
大上段に「古典」とか「伝統」というと、100年前だか200年前だかいつとも知れぬ<遙か昔>のものをそっくりそのまま現代にも再現しなければならないという<伝統原理主義>の強迫概念が往々にして主導権を握ってしまい、「現代風にアレンジしました」っていうやりかたはともすれば<邪道>とされてしまう。そんな風潮が、我々の意識のどこかにあるんじゃないか。
先達の業績はもちろんリスペクトする。するけれども、そこには現代ならではの視点も盛り込まなければならない。その上で、さらに次世代に引き継いでいく。つまり<伝統を守り受け継ぐ>ってのは、実はリノベーションの連続でなければならないはずなんですが、<古色蒼然の骨董品をそのまま遺すこと>だけにしか価値を認めていない<伝統主義者>が幅を効かせてやしないか。…具体的な例をなにひとつ挙げない抽象論に終始して恐縮ですが、なにかにつけ<変革を極度に忌避する態度>ってのは、ここんとこ個人的にちょっと気になってるんです。もちろん、自分自身への反省点としてなんですが。
<古典バレエ>を好んで観に行くという態度じたい、そもそも<古色蒼然の古典好き>の典型なのかもしれません。ただ、わたしは今回の公演ではむしろこの中で<モダンな試み>をいくつも発見し、感銘を受けました。いやこんなの全然モダンでもなんでもねーよ、という意見ももちろんあるでしょう。そもそもおまえの見方そのものが全然なっとらん、と言われると「でしょーねー」と返すしかないのかも知れません。けれども、<やたら過激な前衛一辺倒>でもなく<かび臭い伝統一辺倒>だけでもない、その両者をバランス良く融合させた今回のステージは、頭が固くてセンスの古いわたしなんかにはちょうど良い心地よさと刺激をもたらしてくれました。冒頭に書いた<おだやかで上品>という感想は、つまりはそういうことなのです。
2018 05 13 [dance around] | permalink
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