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5年ぶりのトリニティ!


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 2004年の初来日から数えて20年。8度目となる「トリニティ・アイリッシュ・ダンス」の日本公演を観てきました。

●TRINITY IRISH DANCE COMPANY JAPAN TOUR 2023
06月29日 函館市芸術ホール
06月30日 武蔵野市民文化会館 大ホール
07月01日 東急シアターオーブ
07月02日 東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館)
07月06日 愛知県芸術劇場 大ホール
07月08日 東大阪市文化創造館 Dream House 大ホール
07月09日 白河文化交流館コミネス 大ホール
07月12日 福岡シンフォニーホール(アクロス福岡)
07月15日 熊本県立劇場 演劇ホール
07月16日 三重県文化会館 大ホール
07月17日 神奈川県民ホール

 今回は東大阪公演に駆けつけました。ざっと見た感じ、1階席と3階席合わせて8割以上は埋まっていたかな。バルコニー席を含めて2階席を丸々空けていたのはどういう理由なんだろ?

 ちなみに、わたしが観たこれまでのステージの感想がこちら(カッコ内はわたしが観た会場)。なんだかんだ毎回行ってますねぇ。

2004年公演(伊丹)
・2006年公演の際に発売されたDVDのレビュー
2006年公演(西宮)
2010年公演(東京)
2012年公演(東京)
2014年公演(東京)
2016年公演(京都)
2018年公演(神戸)

 10年代は2年に一度のペースでコンスタントに来日していましたが、2020年はコロナ・パンデミックによりやむなく中止。5年ぶりにようやく再来日公演が実現したわけですから、関係者の感慨もひとしおでしょう。物販コーナーには、おそらくは20年公演で販売されるはずだったDVDも置いてありました(2019年2月のシカゴ公演+2018年来日時のインタビュー映像などを収録)。 

 * * *

 非常に残念なことに、わたしの席は1階前方の右端だったので、舞台の一部がまったく見えません。4人のミュージシャンはステージ最深部に並んで位置していて、ドラムス担当のスティーヴン・ラトレッジの演奏はかすりもしない。カーテン前でプレイする後半のセッションシーンでかろうじてご本人の姿を確認できたものの、S席でこれはないよなぁ…などと思いながら観ていました。

 その演奏陣が、今回はいつにも増して観客とのコミュニケーション担当だったのが印象に残りました。観客と対話したり、第二部の冒頭ではギター/ヴォーカルのブレンダン・オシェイが客席にまで降りてきたり。ついには六甲おろしの一節をみんなで合唱したり(!)…あれ、大阪公演以外のステージでは何をやってたんだろう。

 裏を返せば、ダンサー隊はその手のアピールをほとんどしないんですね。ブレンダンが客席から引き上げた直後の演目『ジョニー』でスモークが炊かれるほかは大道具やセットなども一切なく、照明以外の演出がありません。このきわめてシンプルなステージングは初来日から一貫していて、創設者であり芸術監督をつとめるマーク・ハワードの信念でもありましょう。

 純粋にただダンスの美しさ、技術の高さを感じて欲しいからこそ余計な演出や過度のストーリー付けはいらない。エンターテインメントというよりどちらかというと芸術志向なマーク・ハワードらしい構成になっています。じっさい、上演された演目のうち10年代以降の作品はどんどんその傾向が強くなっています。で、そのぶんショウらしいエンタメ要素は、演奏陣がこれまで以上にがんばるようになったんじゃないのかな。

 パフォーミング・アーツとしてのアイリッシュ・ダンス。トリニティが志向する<プログレッシヴ・アイリッシュ・ダンス>はより抽象化・先鋭化されて、もはやことさら「アイリッシュ・ダンス」というジャンルでくくる必要がないほど自由度を増しています。04年や06年公演には登場していたコンペティション・スタイルはほぼ影をひそめ―近年の作品にも仄めかすレベルで出てくるのでまったくなくなったわけではないですが―さらに言うとそのシーンには、大阪公演では樟蔭中学校高等学校身体表現コースの生徒さんたちが賛助出演というかたちで登場し、客席を大いに沸かせていました―よりグローバルへ、よりジェンダーレスへと変貌しています。

 だから「アイリッシュ・ダンスのルーツがこの姿。」という宮本亜門氏のコメントがいまだに宣伝チラシに引用されているのは大いなるミスリードで、もはや「アイリッシュ・ダンスの最前衛がこの姿。」と言い換えるべきでしょう。興行元は宮本さんに新たなコメントを取り直した方が良いと思います。

 そのチラシには予定演目として記載されていた『カーラン・イベント』が今回外されていたのにも少し驚きました。これまで毎回上演されていて、わたしも好きだった人気演目のひとつなんですけど、実はこれだけがキーラの演奏する音源を使用したものなので、生演奏を基本とする近年の傾向にそぐわなくなってきたのではないかと睨んでいるんですが、どうなんでしょうね。少なくとも、バックのミュージシャン達とのコラボレーションぐあいはこれまで以上にマッチしていたので、これはこれで正解だったとは思います。

 それにしても初来日から20年かあ。20年間で8回というのが多いのか少ないのかわかりませんが、ここまで息長く続くことになったのはやはり関係者の努力のたまもの以外の何者でもないでしょう。深く敬意を表し、陰ながら今後も注目していきたいと思っています。

2023 07 09 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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